10対0でぶつけられたのに「迷惑料」は出ない?――物損事故で被害者が請求できるもの、できないもの(姫路の設例で考えます)
2026/11/03
こんなケースを考えてみます(架空の設例です)。
平日の夕方、姫路市内の国道2号の交差点で、Aさんは赤信号で止まっていました。後ろから来た車に追突され、リアバンパーとトランクがへこみました。けがはなく、警察には物損事故として届けています。
数日後、相手の保険会社から電話がありました。「過失割合は10対0です。修理費はこちらでお支払いします」。
Aさんが「仕事を休んで警察と修理工場を回ったし、迷惑料のようなものは出ないんですか」と聞くと、答えは「物損事故ですので、そういったものはございません」。
こちらは止まっていただけなのに、と思うのは当然です。相談に来られる方がいちばん口にされるのも、金額より「何も悪くないのに、なぜ自分が電話と書類に追われるのか」という理不尽さです。
先に答えをまとめると、次のとおりです。
- 「迷惑料」(物損の慰謝料)は、原則として出ない
- 代わりに、代車費用・評価損など修理費以外の項目は請求できる
- 10対0では、自分の保険会社は交渉してくれない。弁護士費用特約を確認する
- あとから首や腰が痛んだら、人身事故に切り替える
「迷惑料」がもらえないのは、保険会社の意地悪ですか
残念ながら、担当者の答えは法律の考え方に沿っています。
物が壊れただけの事故では、修理費などが払われれば心の負担も償われたと考えるのが裁判所の基本で、慰謝料(精神的な苦痛への賠償)は原則として認められません。古い裁判例(東京高裁昭和46年5月27日判決)以来、この考え方が続いています。
手続の上では、Aさんの車は「対物」という二文字で処理されます。思い入れのある車でも、法律はまず値段で測ります。
例外として、慰謝料が認められた裁判例には次のようなものがあります。
- 飼い犬が事故で重い障害を負い、飼い主に慰謝料(名古屋高裁平成20年9月30日判決)
- 自宅に車が突っ込み、長くアパート暮らしを強いられた(神戸地裁平成13年6月22日判決)
ペットや住まいのように、壊れたものが生活や気持ちと深く結びついている場合には、物損でも慰謝料が認められた例があります。車の外装が壊れたAさんの事故は、ここには入らないのが通常です。
なお、加害者本人が「お詫びに」と渡すお見舞金は、法律の話とは別です。保険会社がそれを払うことはありません。
修理費のほかに、何を請求できるのか
相談でよくあるのは、「迷惑料が出ないなら、修理費だけで終わり」と思い込んでいるケースです。実際には、次のような項目があります。
- 代車費用:修理や買替えの間、仕事や通院に車が必要なら請求できます。期間は「修理や買替えに通常必要な期間」が基準です。
- 評価損(格落ち損):修理しても「事故歴あり」で下取り価格が下がる分です。
- レッカー代・保管料、修理の見積費用
- 全損になったときの買替諸費用
- 営業車なら、使えなかった間の損失(休車損)
保険会社が「代車は2週間まで」と区切ってきても、部品の取り寄せが遅れたなどの事情があれば争う余地があります。
評価損は「当社では認めていません」と言われがちですが、年式が新しい、走行距離が少ない、骨格部分まで損傷したといった事情があれば、評価損が認められる可能性があります。金額の決まり方は物損・評価損の争い方のページにまとめています。
一方で、Aさんの「仕事を休んで回った」分の日当は、物損事故では認められにくいのが実情です。法律と実感のずれが大きいところで、私もいちばん説明に気をつかう部分です。
自分の保険会社が「今回は対応できません」と言うのはなぜ?
Aさんは自分の保険会社にも連絡しましたが、「10対0なので、示談交渉は代行できません」と言われました。
保険会社が示談を代行できるのは、自社が相手に保険金を払う立場にあるときだけです。Aさんに過失がなければ払うものがなく、代わりに交渉すると弁護士法72条(弁護士でない者の法律事務の禁止)に触れてしまいます。10対0の事故では、被害者が一人で相手の保険会社と交渉するしかない、という形になりやすいのです。
そこで確認したいのが、自動車保険の弁護士費用特約です。多くの保険では、物損だけの事故でも弁護士費用特約が使え、特約だけを使っても翌年の等級は下がりません(細かい条件は約款で確認が必要です)。家族の保険や火災保険に付いていることもあります。使い方は弁護士費用特約の使い方のページをご覧ください。
数日たって首が痛くなったら、物損事故のままにしない
追突事故では、当日は何ともなくても、翌日や翌々日に首や肩が痛み出すことが珍しくありません。いわゆるむちうちです。
その場合の動き方は、次の3つです。
- 早めに整形外科を受診する
- 診断書をもらう
- 事故を届けた警察署に「人身事故への切り替え」を相談する(姫路市内なら、場所によって姫路・姫路東・飾磨・網干の各警察署)
けががあるなら人身事故として届け直し、けがの慰謝料(入通院慰謝料)を請求できます。物損の「迷惑料」はなくても、けがの慰謝料は別の話です。
切り替えが遅れるほど、「事故とけがの関係」を疑われやすくなります。我慢して様子を見るより、まず受診です。
話がつかないときは、姫路簡易裁判所の少額訴訟という手もあります
物損の差額が数万〜数十万円で折り合わないときは、裁判所の手続も選択肢です。60万円以下のお金の請求なら簡易裁判所の少額訴訟が使え、原則として1回の期日で審理を終えます(民事訴訟法368条以下)。
姫路市、相生市、赤穂市、上郡町、福崎町、市川町、神河町などは、神戸地裁姫路支部と同じ敷地にある姫路簡易裁判所(姫路市北条1丁目)の管轄です。
ただし、相手が通常の訴訟への移行を求めればそちらに移りますし、証拠の出し方にも工夫が要ります。弁護士費用特約があるなら、交渉の段階から任せてしまうほうが負担は軽いことが多いと思います。
提示書が届いたら、サインの前に一度見せてください
相手の保険会社から修理費や時価額の提示が届いたら、サインする前がいちばん動きやすい時期です。物損だけの事故でも、保険会社の説明をうのみにせず、請求できる項目が残っていないかを一度確かめる価値はあります。
交通事故のご相談は初回無料で、弁護士費用特約を使えば、多くの場合ご自身の費用負担なくご依頼いただけます。
お電話は050-1792-6849(受付は平日9:00〜19:00)です。交通事故のご相談は時間外も自動応答でご用件を伺い、お受けできる場合に翌営業日に折り返します。提示額へのお返事はLINEでも承っています。詳しくは無料相談のご案内をご覧ください。
関連ページ:10対0のもらい事故/物損・評価損の争い方/むちうちの慰謝料と14級認定/弁護士費用特約の使い方
参考:東京高裁昭和46年5月27日判決、名古屋高裁平成20年9月30日判決、神戸地裁平成13年6月22日判決、弁護士法72条、民事訴訟法368条・373条、裁判所「簡易裁判所の所在地・管轄区域」
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弁護士 川手涼平(姫路駅前法律事務所 所属)
住所 : 兵庫県姫路市十二所前町83
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